怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
「どういうこと、優月。鏑木に小野坂って名乗ったの?」
「あ、あの。とっさに旧姓が飛び出てしまって……」
顔を少し後ろに向けて、悠正さんの顔を見ながらすみませんと小声で謝る。
あのときは鏑木さんに旧姓で名乗ってしまっても特に問題はないだろうと思った。でも、まさかこんな形で悠正さんの耳に入るとは思わなかった。そして、なぜか彼は少し怒っている。
「隠岐。お前、本当にその子と結婚したの?」
疑いの眼差しを向けてくる鏑木さんに、悠正さんは面倒くさそうに軽くため息をこぼした。それから私の左手を持ち上げると、手の甲を鏑木さんに向けて見せる。
「結婚してるよ。ほら、これが証拠」
そう言って、悠正さんが鏑木さんに見せたのは私の左手薬指についている指輪。それと同じデザインのものが悠正さんの左手薬指にも嵌められている。
結婚式は挙げていない私たちだけど、入籍と同時に結婚指輪だけはつけることにした。悠正さんが用意してくれたもので、婚姻届を出したその日に私の薬指に嵌めてくれたのだ。
その指輪を鏑木さんはじっと見つめて、しばらくすると「ふーん」とうなずく。
「本当に結婚したのか」
どうやら信じてくれたらしい。