怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
けれど、次の瞬間。鏑木さんがニヤッとした笑みを浮かべた。
「なぁ、隠岐。その子と結婚したってことは、お前はもうあいつのことは忘れたのかよ。それとも無理にでも忘れるためにその子と結婚したのか」
その言葉を聞いた悠正さんの体がぴくりと反応したのが私にまで伝わってきた。なんとなく彼のまとう空気がピリッと引き締まったように感じる。
そんな悠正さんに向けて鏑木さんが言葉を続ける。
「俺が原因であいつとはうまくいかなかったんだもんな。悪かったよ、お前の女を取ったりして。でも、あれは仕方ないだろ。あいつが選んだのは俺で、お前じゃなかったんだから」
「なんのことだ、鏑木」
「おいおい、とぼけたふりかよ」
「いや、そうじゃなくて。俺にはお前の言っていることの意味がさっぱりわからない」
そう答える悠正さんの口調は落ち着いている。けれど、私の胸は先ほどからずっとざわついていた。
‟お前の女を取って„という鏑木さんの言葉が耳に残って離れない。ふたりはいったいなんの話をしているのだろう。内容から察するに不穏な感じがするけれど、このまま私が聞いてしまっていいのだろうか。