怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
そう話す母の声が震えていることに気が付いた。泣くほど心配をかけてしまったことに、私の胸がチクリと痛む。
昨日は、母へのちょっとした反抗心から携帯端末の電源を落として連絡を絶っていた。そんなことをすれば母が心配するだろうことはわかっていたのに、どうしても母に逆らいたかった。
私の母はとても過保護だ。子供の頃から厳しく門限を決められていたし、遊ぶ友達にも口出しされた。進学先も女子校しか認めてもらえず、部活動、アルバイトは禁止。大学卒業後はひとり暮らしも許してもらえず、私はずっと実家で母と暮らしている。
二十五歳になった今でも門限はあるし外泊も禁止。休日に友達と遊びに出掛けるときも、誰とどこへ行くのか、何時に帰るのかを母に事前に伝えないといけない。
そんな生活はとても窮屈だけれど仕方ないのだ。
母がここまで過保護になってしまった原因は私にあるのだから……。
今から十五年前――当時十歳だった私は小学校からの下校途中に誘拐事件に巻き込まれた。
幸いにも未遂に終わり大事には至らなかったものの、その事件が母の心に深い傷を残してしまった。