怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~


「待った」


 その腕をとっさに掴んでソファに引き戻した。優月を俺の隣に座らせる。


「悠正さん? ご飯食べないんですか?」


 その支度のために立ち上がったのに引き戻されて不思議そうな表情を浮かべる優月が、こてんと首を傾げて俺を見つめる。

 そんな彼女の額に手を伸ばし、前髪をそっとかきあげた。


「ずっと気になっていたんだけど、優月のここはどうしたんだ? 赤い痣のようなものがある」

「痣?」


 突然の俺の言葉に優月は一瞬きょとんとした顔を見せるが、すぐに理解したのか「あっ」と声を上げる。


「これのことですね」


 優月の指が自身の額の痣に触れた。


「子供の頃の怪我です。転んだときにできたんですけど、痕が残ってしまって」

「そうだったのか。痛い?」

「いえ、まったく。もう十年以上も前のことですよ」


 そう答えて優月がクスッと笑った。

 確かに、そんなに昔の怪我ならもう痛みなんてないだろう。でも、優月の額の赤い傷跡は十年以上も経っているはずなのにまだ痛々しそうにくっきりと残っていた。


「転んだというのは、遊んでいるときに?」


 傷ができた経緯が気になり尋ねると、一瞬だけ視線を下に落とした優月が「……いえ」と静かに首を横に振った。

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