怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
「私、子供の頃に誘拐されたことがあって」
「は?」
さらりと告げた優月の言葉に俺らしくない動揺した声が飛び出た。すると、そんな俺の反応を見た優月が焦ったように口を開く。
「すみません。言い方がいけませんでした。誘拐といっても未遂で終わって、特に大きな被害はなく無事だったので」
いや、無事とはいえ誘拐されかけたってことだよな。まさか優月にそんな過去があったとは知らなかった。
動揺が消えない俺に、優月はさらに詳しく当時のことを話してくれた。
――小学校二年生の頃だったようだ。
近所の仲良しの友人と下校中、それぞれ家のある方向に別れた直後の路地で優月は二十代後半ぐらいの男性に声を掛けられたそうだ。そしてそのまま近くに停めてあった男の車に引きずり込まれそうになった。
必死に抵抗していると、たまたま近くを通りかかった郵便配達員の男性が優月たちの異様な様子に気が付き、駆け寄ってきた。それに慌てた誘拐犯の男が逃げようとして、優月のことを思い切り突き飛ばした。優月は顔からアスファルトに倒れ込み、受け身がうまく取れずに額を強打してしまったらしい。傷はそのときにできたそうだ。
当時よりも薄くなってはいるものの完全には消えず、今も優月の額に痛々しく残されている。