怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~

 それを隠すことなく堂々と手に持った男性が向かうのは悠正さんたちのいるテーブル。

 どうやら私以外の客たちも男性が手にしている物の存在に気が付いたらしく、小さな悲鳴が上がり始める。

 けれど、先ほどからずっと真剣に話し合っている悠正さんたちはこの状況に少しも気が付いていない。

 私は思わずイスから立ち上がる。包丁を手にした男性が向かう先にいるのは間違いなく悠正さんたちだ。早く逃げないと……!

 男性がじわじわとふたりに近付いていく。すると、ようやく悠正さんたちもこの異様な事態に気が付いたようで、急いでイスから立ち上がる。

 元恋人の女性の目が大きく見開かれ、「あなたは……」と声を漏らしたのが聞こえた。

 そこでようやく私は気が付く。男性が狙っているのは彼女の方だ。悠正さんもそれに気がついたらしく、向かいの席に座る元恋人の手を掴むと自分のほうへ引き寄せ抱き締めた。

 そのまま体の向きを変え、包丁を手にして向かっていく男性に自らの背を向ける。どうやら逃げるのは間に合わないと判断したのか、悠正さんは元恋人をかばうために自らを盾にしたようだ。

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