怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
ふたりのすぐそばまで来た男性が包丁を持った手を大きく振り上げると、周囲から大きな悲鳴が上がる。
このままでは悠正さんが刺されてしまう……!
「やめて――――!」
私はとっさにそう叫んでいた。その声に驚いたのか包丁を振り上げる男性の体がピクッと跳ねて、動きが止まる。その隙に私は悠正さんと男性の間に飛び込んだ。
男性は、目の前にいきなり私が現れたことに動揺した素振りを見せたものの、私に向かって包丁を勢いよく振り下ろす。
クロスした両腕でとっさに頭をかばうと、左の二の腕の裏側に焼けるような鋭い痛みを感じた。
「――っ」
男性の持つ包丁が赤く染まっている。おそらく私の血なのだろう。それを見た瞬間、腕を切られたのだと理解した。
テラス席にはいっそう大きな悲鳴が響き渡り、「警察に電話」「救急車も」と叫ぶ声があちこちから聞こえる。
私はその場に座り込んでしまった。
男性は包丁を持ったまま立ち尽くし、私を見下ろしながら震えている。刺す気でいたものの、いざ本当に人を切りつけて自分のしたことの重大さに気が付きうろたえているのかもしれない。
その手から包丁が滑り落ち、カランと小さな音をたてて床に落ちた。