怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
すると、カフェにいた数名の男性客が、もう包丁を手にしていない男性に向かっていっせいに駆け寄り取り押さえる。男性に抵抗する様子はなかった。
「……優月?」
後ろから悠正さんの声が聞こえた気がした。
「どうしてここにいるんだ……」
切られた腕をおさえながら座り込む私の目の前に悠正さんが両膝をついた。私を見つめる彼の顔は見たことがないくらい動揺していて、こんな顔をさせてしまっているのが自分のせいだと思うとつらくなる。
悠正さんの視線が切られた私の腕に向かい、大きく目を見開いた。けれどすぐにいつもの冷静な彼に戻り、周囲を見渡して店員の姿を見つけると素早く声をかける。
「なにか清潔な布はないか。使っていないタオルとか布巾でいいから」
「はい。あると思います」
店員がうなずいたのを見た悠正さんが、それをあるだけたくさん持ってくるように指示をした。
「優月、大丈夫か。腕、痛いよな」
悠正さんが私に向かって尋ねてくる。
「痛くない、です。……大丈夫」
心配かけたくなくて無理に笑顔を作った。けれど、私の腕からは血が溢れていて、それがぽたぽたとテラス席の床に落ちている。
ドクンドクンと傷口が痛む。本当はすごく痛い。出血のしすぎなのか、目の前がくらくらとして耳が遠くなってきた。