怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
「……無事でよかった」
耳元でそう告げる彼の腕の力は、私の腕の傷を労っているのかとても弱く、ふんわりと優しく私を胸の中におさめている。
「ごめん、優月。こんな怪我をさせてしまって」
「どうして悠正さんが謝るんですか」
悠正さんの口から謝罪の言葉が飛び出た理由がわからず、私はそっと彼を見上げる。
私の怪我は悠正さんのせいじゃないのに。私が勝手に、包丁を手にした男性の前に立ちふさがっただけ。悠正さんを傷つけられたくなくてとっさに体が動いていた。
「悠正さんのせいじゃないです」
そう言って微笑む私の後頭部に悠正さんの手が回りさらに引き寄せられる。
そんな悠正さんの上等なスーツの袖部分に赤黒い染みを見つけた。私の血だとすぐに気が付き、スーツを汚してしまって申し訳ないとふとそんなことを考える。
「優月」
頭上から悠正さんの低い声が私の名前を呼んだ。
「今回のことで改めて考えさせられたことがある。……俺は、このままきみと一緒にいてもいいのだろうか」
静かにそう告げた彼の腕が私の体をそっと解放する。