怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~

 そのあと、私は悠正さんに付き添われながら救急車で病院へと向かった。

 到着後、切られた箇所を縫合してもらい、しばらくは安静にしていると痛みは消えて、意識もだいぶはっきりとしてきた。

 左の二の腕の裏側にはどうやら傷跡が残ってしまうらしいけれど、それについてはさほど気にしていない。包丁を持った男性の前に飛び出すという今思えばとても無茶なことをしたはずなのに、命が無事だっただけでも奇跡だ。

 抗生剤と痛み止めをもらい、私はその日のうちに悠正さんと一緒にタクシーでマンションへと帰宅する。

 その車内で、どうしてあのカフェにいたのかを悠正さんに尋ねられた。けれど、元恋人との関係が気になり、こっそりとふたりを盗み見していたとは言えない。たまたまひとりで訪れてお茶をしていたのだと嘘の答えを告げると、そうか……と悠正さんは静かにうなずいた。

 納得してもらえたのかはわからないけれど、それ以上はなにも聞いてくることはなかった。

 帰宅してリビングに入るとソファに腰を下ろした。

 私の服は切られたままだし、すでに固まった血がついている。まずは着替えた方がいいのだろうかと考えていると、隣に座った悠正さんに引き寄せられ抱き締められた。

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