怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
すると、そんな私の視線に気が付いたのか女性の指が自身の襟元のバッジに触れた。
「自己紹介がまだだったわよね。私、濱里法律事務所で弁護士をしている雪平律花です。隠岐君……優月さんのご主人とは大学の頃からの友人なの。聞いているかしら」
「雪平さん……」
彼女が悠正さんにとってただの友人ではなく元恋人だということを私は知っている。けれどさすがに私の前でそのことをはっきりとは言えないのだろう。
それよりも雪平律花という彼女の名前を最近どこかで耳にした気がした。思い出していると彼女――雪平さんが言葉を続ける。
「隠岐君からもう聞いているかもしれないけれど、あなたの腕を切ったあの男は私に逆恨みをしていたの。以前あの男の奥さんの代理人になって離婚訴訟を扱ったとき、離婚という判決結果にあの男は不満を抱いていたらしくて。奥さんの代理人をしていた私を恨んで今回の犯行に及んだ」
それは今初めて知った事実だった。
悠正さんはあのときのことをまだ私に詳しく話してくれない。それはたぶん彼なりの気遣いで、怪我をしたばかりの私がなるべく事件のことを思い出さないようにしてくれているのだろう。