怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
「――優月」
ふと名前を呼ばれて振り返ると、マンションのエントランスから悠正さんが走ってくるのが見えた。離婚届を置いて去った私のことを追いかけてきたのだろうか。
「律花? どうしてここに」
私の隣に来た悠正さんの視線が雪平さんに向けられる。
「隠岐君と優月さんにこの前のことを改めて謝罪に来たの。そうしたら優月さんがちょうどマンションから出てきたから少し話をしていたのよ。隠岐君の大切な奥様に怪我をさせてしまったこと、本当にごめんなさい」
今度は悠正さんに向かって雪平さんが深く頭を下げた。
「律花。そのことの謝罪はもうたっぷり聞いた」
「でも、狙われていたのは私なのに隠岐君と優月さんが庇ってくれたから私は無事だった。巻き込んでしまってごめんなさい」
下げていた頭を上げた雪平さんの視線が私へと向けられる。
「優月さんも本当にごめんなさい」
「いえ、私はもう大丈夫なので」
「でも、腕のその怪我、痕が残ってしまうのよね」
悠正さんから聞いたのだろうか。
「痕は……そうですね。残ってしまうみたいですけど、大丈夫です。気にしていません」
「優月さん……」
「それよりも、雪平さんも悠正さんも無事で本当によかったです」