怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~



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 隠岐総合法律事務所は所長である隠岐先生のお父様が三十年ほど前に独立開業した弁護士事務所だ。

 数多くの民事・家事・刑事事件を手掛け、案件内容としては債務の支払い請求、建物の明渡し請求、離婚、相続・遺言、交通事故、労働問題など多岐にわたる。

 事務員である私の仕事は弁護士の先生方のサポート。特に担当は決まっておらず、その時々で頼まれた仕事をこなしている。

 大学卒業後に就職して今年で三年目。

 スケジュール管理や書類のコピーにファイリング、電話・来客対応、それに書類作成や提出など……日々忙しく働いている。



「――はい。隠岐総合法律事務所です」


 午後。頼まれた書面を裁判所に提出してから事務所に戻ると、事務員フロアに一本の電話が鳴り響いた。

 私の他にも数名の事務員の姿があるが、皆それぞれ仕事に追われて忙しそうにしていたのでここは私が電話を取ることにした。

 すると、声からしておそらく年配の女性がやや控えめに口を開く。


《すみません。そちらに隠岐悠正先生という弁護士の方はいらっしゃるでしょうか》

「はい。隠岐でしたら在籍しております」

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