怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
どうやら隠岐先生宛ての電話のようで、年配女性がおどおどしたように言葉を続ける。
《以前、知人が隠岐先生に遺産相続の件でお世話になりまして。その際とても親身になってくださったと聞いたので、私も相談したいことがありお電話したのですが……》
「わかりました。隠岐に確認しますので少々お待ちください」
ひとまず女性との通話をいったん保留にしてから、隠岐先生に連絡を取ることにした。彼の個室の番号に内線を掛けると数回のコールの後で《はい》とふんわりとした低い声が返ってくる。
「小野坂です。隠岐先生に相談したいという新規の依頼者さんからの電話を受けているのですが、どうされますか」
すぐに取り次げればいいのだけれど、なにせ弁護士先生方はみな多忙だ。飛び込みの電話相談の場合はすぐに対応できないこともある。
今も、申し訳なさそうに隠岐先生が電話の向こうで口を開いた。
《すまない。これからすぐに裁判所へ行かないといけないんだ。一時間ほどで終わると思うけど、そのあと別の案件の事故現場の調査に立ち寄りたいから事務所に戻るのは四時を過ぎるかな》
「では、また後日掛け直していただくようお伝え――」