怜悧な弁護士は契約妻を一途な愛で奪い取る~甘濡一夜から始まる年の差婚~
こんなところで寝てしまって大丈夫だろうか。起こした方がいいのかな。
しばらくおろおろとしていたけれど、最近の隠岐先生が忙しくしていたことは知っていたし、たぶんまとまった睡眠が取れていないのだろうと思いこのままそっとしておくことにした。
けれど、大事な裁判の前に風邪を引いてしまっては大変だと、事務員フロアから自分のひざ掛けを持ってきて、それを眠っている隠岐先生にかけようとした。そのとき彼の目が突然ぱちりと開いた。
『ん……あ、やば。寝てた』
むくりと起き上がった隠岐先生は片手で自身の髪をわしゃわしゃとかき回す。寝起きのとろんとした目が、ひざ掛けを持ったまま固まっている私へと向けられた。
『確かきみは、えっと……事務の小野坂さんだっけ。どうしたの?』
『あ、えっと、すみません。起こしてしまって』
『いや、別に大丈夫』
大きな欠伸をしている隠岐先生を見ながら、私はひざ掛けをくるくると丸めて後ろ手にそっと隠した。
『隠岐先生。なにか飲みますか?』
『え、いいの? それじゃあコーヒーちょうだい。ブラックで』
『はい。少しお待ちください』