京都、嵐山旅館の若旦那は記憶喪失彼女を溺愛したい。
さっきの男性が心配そうな顔でこちらを見ている。


どうしてそんな目で私を見るんだろう?


「まず、あなたの名前を教えていただけませんか?」


名前?


どうしてそんなことを聞きたがるんだろう。


だってこれは夢の中だよね?


それなら名前なんてどうでもいいじゃない。


そう思って男へ微笑みかけたとき突き刺すような痛みがこめかみに走って顔をしかめた。


頭を抑えてうめき声をあげる。


「大丈夫ですか!? 頭が痛いですか?」


慌てた男の声に私はうなづく。


「簡単な常備薬ならあるんですが、あなたのことをもっと教えてもらわないと出すわけにはいなかいんです」


その言葉に私は男を見つめた。


この人はどうしてそんなことを言うんだろう。


どうして、私のことを知らないと薬が出せないだなんて、よくわからないことを……。


「普段飲んでいる薬があるのならそれを教えてください。飲み合わせを確認しますから。それとアレルギーを持っているかどうかも問題になります」


早口で説明する男に私はようやく納得した。


私のことを知りたいというのは、そういうことだったようだ。


頭痛に苦しみながらもなんだか少し期待してしまった自分がおかしくなる。
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