陰に埋もれし英雄に花束を
ジャンヌの言葉を脳が理解した途端、アーサーの顔は真っ青になる。自国の人間同士で争うなんて馬鹿げた真似をするのはこの国以外にいるのだろうか。国王の率いる軍隊と、民間人が集まってできた軍では力の差がありすぎる。負けるのは目に見えている。

「お兄ちゃんは何も気にしなくていいから。無事に帰ってくるから心配しないで」

ニコリと微笑んでジャンヌは席を立つ。お兄ちゃん、そうアーサーが呼ばれるのはいつぶりだろう。ジャンヌは不安を隠したい時、いつもアーサーのことを「お兄ちゃん」と呼ぶ。

アーサーは自分の握り締められた拳が震えていることに気付いた。この胸にあるのは恐怖だ。何に怯えている?そう自分に問いかけ、アーサーはすぐに答えを見つけ出す。

アーサーがぼんやりと見つめる壁には、剣がかけられている。ジャンヌの使う剣は槍のように長く、重い。こんな世界でなければ、彼女はきっと剣の重さなど知らずに生きていけたのかもしれない。幸せに笑って暮らせたのかもしれない。
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