10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

「それはどういう……?」

 聞こうとしたとき、「果歩」と聞きなれた声が頭から振ってくる。
 顔を上げると、大和先生が後ろに立っていて、私の横にそのまま座った。

 私はふいに昨日の出来事を思い出して、気まずくて顔をそらす。
 大和先生は麻子さんをじっとみると、そのまま話し出した。

「花菱さん。ここの産婦人科、もう慣れた?」
「はい、みなさん優しいので。……この前は軽いご挨拶だけで申し訳ありません」
「いや、そんなこと気にしないで。よろしくね」
「はい」

「でも、果歩にあまりいらないことは教えないでね」

 大和先生は低い声で言うと、そのまますぐに立ち上がる。

「や、大和先生、お昼は?」

 私が慌てて聞くと、
「医局で軽く食べたんだ。これから手術だから。じゃあ、果歩。また夜にね」

 そう言って微笑まれて、私は口を噤んだ。

 今日も夜に帰ってくるんだよね……。
 昨日気づいたのだけど、大和先生は忙しい中でも、私が帰宅する夕方や夜には、必ずと言っていいほど帰宅してくる。

 そして休んでおけばいいのに、私にいろいろしてきて、オンコールがあればまた出勤するのだ。

 私は休んでいて欲しいし、家では快適に過ごして欲しいと思ってる。そんな短い時間だからこそ仲良くだってしたい。

 それにはきっと、先生にもっと好きになってもらわないといけないんだろうなぁ。
 昨日は怒らせちゃったけど、今日は……どうなんだろう。
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