10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
連れていかれたのは、都内の一等地にそびえ立つ大きな白い建物。
この前を通ったことはあるが、おしゃれすぎて足など踏み入れたことはない。
「ふぁ! オシャレサロン!」
「あはは、全部お兄ちゃんのセンスよ」
麻子さんはあっさり言って、私を連れて店内に入る。麻子さんのお兄さんは、ただの美容師ではなさそうだ。
店内も驚くほど洗練されていて、目の前がキラキラして見えた。
そんなとき店の奥から、190cmはあろうかという長身ですらっとした体型、綺麗なライトブラウンの髪が目立つ、端正な顔立ちの男性が歩いてくる。そして、私に微笑みかけた。
「はじめまして、ここのオーナーで、麻子の兄の花菱正真です」
「あ、あの、はじめまして。麻子さんと同じ病院に勤めてます、早乙女……いや、成井果歩です。今日はお時間いただいてすみません」
「硬くならないでいいよ、よろしくね」
そう言って正真さんは笑う。
きれいな笑顔の人だと思った。麻子さんに少し似てる……。
そんなことを思っていると、正真さんは自分の手を顎に持って行って唸る。
「それにしてもいじりがいありそうな子だなぁ」
「でしょ!」
二人はニコニコして私を見ていた。少し居心地悪くなって私は目をそらせる。
さっそく座らされて髪を触られた。好きにしてもいい? と聞かれて、よくわからないまま頷いた。
私のセンスより、正真さんのセンスの方が百万倍信頼できそうだ。
そんなことを思うと、楽しそうに正真さんは笑った。