10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~

 それはまさに青天の霹靂。
 全く考えてもいなかったことで、私はただ、戸惑うしかなかった。

 それほど慌てている私を見て、島原先生は嬉しそうに微笑む。

「果歩ちゃん、ホント『人妻』って言葉似合わないよね」
「わ、私……だ、だって……」

「でもね。僕にとって果歩ちゃんは『大和の奥さん』じゃなくて、『果歩ちゃん』なんだ。僕のことで困ってくれて嬉しい。僕、それが見たかったのかな」

 また少し笑った島原先生を見て、私は眉を寄せる。

(私が困って嬉しいなんて……)

「い、いじめっ子……?」
「うん」
「困らせて嬉しいなんて、やっぱり好きじゃないんじゃないですか……」

「ちがうよ。好きな子ほどいじめたくなるタチなの。好きな子いじめるとか、小学生かと思うけどね」

 島原先生は目を細めて私を見ていた。

 恋愛感情とは違うと言ってもらえなくて、私はまた泣きそうになる。

 どうやら、島原先生が私の事を好きだという事実は変わらないらしい……。
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