10秒先の狂恋 ~堅物脳外科医と偽りの新婚生活~
悩んでいても時間だけは過ぎていくもので、料理を作りながら待っていると、大和先生が帰ってくる。
玄関先でドアの開く音が聞こえると、私の心臓は限界まで跳ねた。
「お、おかえりなさい……」
どんな顔をして言えばいいのかわからないまま言うと、大和先生は嬉しそうに顔を綻ばせた。その顔を見て、また胸が高鳴る。
これはどういうことなんだろう? 私、大和先生のこと、まだ怖いのかなぁ……。
「いい匂いだな」
「あ、夕飯……作ってて……」
「そうなの? ありがとう」
そう言われて、驚いた。
成井家では和世さんが作ってくれたし、一人暮らしをはじめてからも自分のためにしか料理って作ったことなかったから……『ありがとう』なんて言われて、さらにその相手が大和先生で二重の驚きだったのだ。
「こ、こちらこそ、勝手に作って……すみません。それに好き嫌いとかも知らないのに……嫌いな食べ物だったら申し訳ないです」
「謝る必要なんてないよ。好き嫌いはないし、果歩の作ってくれたものならなんでも嬉しいんだから」
「な、ならよかったです」
優しい声を聞いてまた胸がドキドキして、それを誤魔化すようにくるりと踵を返すと、夕食の準備を進めようと決める。しかし、
「果歩?」
呼ばれて、大和先生に手を掴まれる。
「はい」
振り向くと、先生の熱っぽい目と目があって、心臓がまたドキリと跳ねた。