花嫁も大聖女も、謹んでお断り申し上げます!

それならフィデルの名を騙っていたあの彼のことも知ってるかもしれない。

そう考えてエミリーは思わず聞きかけたが、エスメラルダにはぐらかされた記憶が蘇ってきて、言葉が出て来なくなる。


「……ええと、そうね、彼が無理な時はお願いするわ」

「ぜひそうしてくれ。いつでも案内するから」


ケビンは晴れ晴れとした様子で前列の方へ戻っていく。

改めてあの美麗な彼のことを何も知らない自分自身にがっかりし、本当の名前くらい教えてもらえば良かったと今更ながら後悔する。

廊下を進んで行くと外回廊へと繋がり、やがて裏庭を囲っている塀が見えてくる。

裏庭への出入り口のそばには一般の人々の列があり、門番が「裏庭の人払いは完了しております。生徒さん方、どうぞ中へ」とビゼンテへ声をかけた。

いざ大聖樹を見られるとなると、さすがに胸が高鳴り出す。

エミリーはドキドキしながらクラスメイトに続いて裏庭へと足を踏み入れ、思わず「わぁ」と声を発した。

そこはたくさんの木々が生い茂り、まるでひとつの森のようだった。

木の幹はどれも太く、葉は青々とし、草だけでなく花も咲き乱れ、どこかから鳥の囀りも聞こえてくる。

< 62 / 286 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop