その甘いキスにご注意を ~鬼上司の顔の裏に隠された深い愛情と激しい熱情~
憂鬱な気分で体を拭き、洗い流さないトリートメントを髪につけ、ドライヤーで髪を乾かす。
私は美人だと自覚している。
……でもそれも、他の人よりかは、という話だ。

確かに、相対的に評価すれば私は器量よしの部類に入る。
でも、自分で自分を評価する、絶対評価だったら……?

昨日まではいいと思っていた部分が、他の部分を直すときにふと気になってしまう。
毎回毎回その繰り返しで、終わりなんて見えない。
ゴールのない中で、私はこの不完全な顔との闘いを続けている。
私は整形をするのがなんか悔しくてしたことないけど……きっと、整形の沼にハマってしまう人の心理と同じなのだろう、これは。

リビングに戻った後、充電器にさしたスマホを充電器から外し、そのまま寝室に向かった。
そのままベッドにダイブし、スマホでタレ目とエラ張り解消のマッサージを探し始めた。
1LDKの空間には、ルームフレグランスの淡い香りが漂っている。

たった一ミリ二ミリ程度のことなのに、それがどうしてもやめられない。
気にせずにはいられない。
自分でもわかっている。
これは、私がいまだにあの言葉に縛られ続けている証拠。

『お前みたいなスでデブで運動もできない女がバカみたいに喜んでいるのを見ると、笑えて来るんだよな』

馬鹿みたい、あの後、私はこれだけ努力してここまでいろいろなものを手に入れた。
この美貌も、スタイルも、会社も。

睡眠に影響が出てもいけないと、寝室はすべて間接照明で揃えてある。
リッチな暖色の光に包まれた穏やかな空間に一つ。
ベッドにうつ伏せに寝転がったままマッサージ方法を探す、私の手元のスマホだけが青白く光っていた。
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