その甘いキスにご注意を ~鬼上司の顔の裏に隠された深い愛情と激しい熱情~
高嶺の花
カタカタカタ
素早くタイピングをする。
もちろん、ブラインドタッチで画面を見ずに。
画面に意識を向けていると、よこから男性が私に声をかけた。

「綾瀬さん」
「はい」

「これ、頼めるかな?」
差し出された書類を見る。
簡単な資料作成ってところか……

「大丈夫ですよ。いつまでに終わらせればいいですか?」
「明日の昼にはもらいたい」
「了解です」

書類を受け取り、私は再びデスクに戻った。

―—順調じゃない。

私は周囲にバレないように、こっそりとほくそ笑む。
さっき、男性社員が私に書類を持ってきたときから感じていた視線。
それらは紛れもなくこのフロアにいる男性社員たちからのものだった。
色んな方向から、少し熱のこもった視線が私に向けられる。
少しくすぐったいような気もしなくはないけれど、私にとってそれは快感だった。

目は比較的大きくて、パッチリ並行二重。
スッと通った鼻筋の曲線の先には、ふっくらと赤味のさした形の整った唇。
もちろん、肌は染み一つない白。

私は自分の美貌を把握している。

私は美しい。

それなのに、男性社員は私を遠巻きに見つめるだけで話かけにも来ない。
——まあいっか、そのうち何かあるでしょ。

視線にも、何故か誰も私に話しかけに来ない事にも気づかないフリをして、私は仕事へ戻った。

……自分でもクソだと思う、この性格。
自覚してるんだからいいでしょ、少しくらいは。

私がこんなにもひねくれた女になった理由。
そのすべては、中学校の頃に初めてできた、あのクソ彼氏にある。
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