白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

23. 不確かな形と確かな形

「私なら、王位継承争いの渦中にいて危険だからとレミリアとの婚約を解消したりはしない。たとえば――クロードと結ばれた方が君は幸せになれるからと自ら手を離すくらいなら、死を選んだ方がましだ」

 膝の上で両の指を組んで形の良い眉を寄せる。自らのことのように悲痛な色が浮かんでいた。

「もちろん君だってそんな覚悟くらいあっただろう。そして周りが自死を選ばせてなどくれないことも、私の言うことが理想を語っているだけなのも分かっている」

「殿下」

「正直に言えば私は、君には強い負い目がある。そんな私のエゴを満たす為に幸せになって欲しいと願っている」

「殿下が僕に負い目を感じられる必要はありません」

 シェイドは静かに首を振った。

「失礼ながら王弟殿下に野心がないのであれば、父は十九年前に事故を装って殺されなかったはずです。そして父と母が愛し合ったから僕がいます。僕でなければ彼女に会うことも、幼い彼女の無邪気さに恋をすることもなかったでしょう」

 初めて出会った日のロゼリエッタの姿は、ずっと目に焼きついている。

 自分より小さく、身体も弱い彼女は見たこともないほど眩しくて、あっという間にクロードの世界を明るい色に染め上げた。そうして、クロードの心のほとんどを占めたのだ。

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