白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
「グランハイム公爵家や、レミリアを通してクロードに会うことはできない。だがロゼリエッタ嬢に何かあったと知れば、君の方から会いに来る……そう言われたのだそうだ」

「要するに狂言誘拐のつもりだったと?」

「端的に言えばそういうことになるな」

 シェイドは思わず絶句した。

 ロゼリエッタが領地へ向かうことを、ダヴィッドがそれとなくレミリアに知らせてくれていたから救出が間に合った。

 もしもあのままロゼリエッタが本当に連れ去られていたら、どうなっていたか。

 彼らの良いように手酷く利用され、身も心も傷つけられていただろう。


 すでに彼女を傷つけたシェイドが偉そうに言えたことではない。

 だが、それでも最悪の事態から守れたことに安堵する。

「ロゼリエッタ・カルヴァネス嬢及び彼女の侍女たちの身柄はこちらが無事に確保した。いや、正確に言うなら確保させられた、と言うべきかな。これで君はこの場所から離れて行動することはできなくなったのだからね」

「――そういうことになりますね」

 マーガスは"確保させられた"と言ったが、それでシェイドの動きが制限されたことを咎めた様子はない。

 むしろ身内には情が厚い彼は好機だと思っている。そんな様子だ。

「本当にこのままでいいのか、クロード」

 マーガスは重々しく口を開いた。

 窓から差し込む日差しは西に傾きかけて柔らかい。だが、それを受けるマーガスの表情は声音以上に硬質だった。

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