白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

24. 舞台上に取り残された人形

「元気そうだね。安心したよ」

「ご心配をおかけしてごめんなさい」

 本当に心配してくれていたのだろう。客間に現れたダヴィッドは、ロゼリエッタの姿を見ると安堵の笑みを見せた。


 "多少のトラブル"に見舞われたものの元気にしている。

 そんな内容の手紙を家族へと出した五日後、居場所をどうやって知ったのかダヴィッドが単身で訪れたのだ。

「それよりも、どうしてこちらに?」

「シェイド――が手紙をくれたんだ。ここでのことを一切口外しないという約束で、君に会わせてくれるとね」

 シェイドの口利きがあったことはさしものロゼリエッタでも想像がついた。他に知る術などないからだ。けれど口外しないとはどういう意味だろう。


 尋ねようとして、自分の置かれている立場を思い出してやめた。

 重罪人のロゼリエッタと密会したなどと知れては、ダヴィッドにもあらぬ疑いをかけられかねない。それに、下手に触れない方が良いこともあるのだと、今のロゼリエッタは理解している。


 シェイドが判断し、ダヴィッドに他言無用を約束させるのなら、そうした方が彼らにも都合の良いのだろう。

 面会を許されたのが家族ではなくダヴィッドであることも、同じ理由からに違いない。

「領地に向かう途中で体調を悪くして、治るまではここに身を置かせてもらうんだろう? どのみち、今はマーガス王太子殿下の件があるから王都からは出られないようだけどね」

 シェイドの検閲を受けて、体調不良のせいで領地への到着が遅くなると知らせた。当たり障りのない理由ではあるけれど、身体の弱いロゼリエッタなら説得力もある。

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