白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
「一方的な解消すぎて、婚約者殿はどうしても納得が行かないのだそうだ」

「納得が行かないと申されましても」

 やはりシェイドの歯切れは悪いままだ。


 一方的だと謗られようと、形として二人の婚約は解消となった。破棄ではない。ロゼリエッタの――主にカルヴァネス侯爵家の――同意を得てのことだ。

 だがマーガスは追及の手を緩めなかった。

「では本当に、ロゼリエッタ嬢に真実を伝えないまま、愛などどこにもないから解消したと思われたままでも良いのだな」

「そういう言い方は、些か卑怯ではありませんか」

「卑怯? どこが?」

 苦々しく声を振り絞ったシェイドに対し、質問で返す。


 分かっている。

 同意を得たんじゃない。同意しかできないよう、無理やり外堀を埋めたのだ。

「この生活がいつまで続くのか私には分からない。ただ少なくとも、そうすることを選んだのは全て君の意思だ。かつての婚約者だった少女とやり直す為でも、最後の思い出作りの為でも、どんな終わりを迎えたとして、後悔だけはしてはならないと思う」

 マーガスの言葉は耳に痛い。

「主ではなく従兄として言わせてもらおう。クロード、君は幸せになっていい。人を好きになってもいいんだ」

 そしてその力強い言葉は、心の深い場所へと沈み込むようだった。

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