白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
「ロゼリエッタ様?」

「シェイド様には、お伝えしないで」

 オードリーが心配そうに声をかけてくれる。


 大丈夫だと答えたかったが、放置して済む状態ではない。ならばせめてと、ベッドに横たわったまま懇願した。

 伝えずとも、食事の席に顔を出さなければ簡単にばれてしまうことだ。案の定オードリーは困ったような顔をロゼリエッタに向けた。

「お知らせしなくてはいけないのなら……。私が、癇癪を起こして閉じこもってる。そうお伝えしたらいいわ。そうしたらシェイド様もきっと――わがままを言って、いるのだと」

「癇癪だなんて、そんな」

 昨日の今日の出来事だ。言い訳としては立つだろう。信じてもらえなくたってどうなるということでもない。

「熱があるみたいなの。もう少し眠りたいから……冷たいお水に浸した布を、用意してもらってもいい……?」

「き、気がつかずに大変申し訳ございません。すぐご用意致しますから!」

 声を振り絞って要望を伝えるとオードリーは一礼し、急いで部屋を後にする。

 遠ざかる足音を聞きながら目を閉じた。


 ずっと熱が下がらず、足手まといだと王都内のカルヴァネス家に戻されるならその方がいい。

 あるいは、明日にでも体調を取り戻して領地に向かわせてくれるのでも良かった。


 ひどく苦しい。それは熱のせいだけではなかった。

 行き場を失くしたままの心が苦しい。

 大丈夫だよと手を握って欲しくて、だけどそれは叶えられない願いだと思い知って心が軋む。シーツの中で自らの指を組んだって祈りは届かないし何の慰めにもならないでいる。

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