白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 シェイドの口ぶりだと、継承争いは主にグスタフとフランツの間に起こっていたことのように思う。仮にフランツが王位を諦められずにいたとしても、王位を得たグスタフと血の繋がりのあるというアーネストはどうしているのだろう。王太子と第三王子が相手となれば、フランツは些か分が悪いように見える。

「もうお一人の弟君のアーネスト殿下は……」

 シェイドから語られていないその名を、自分から切り出すのはわずかな抵抗があった。

 何をどう聞けばいいのかも分からずに結果、中途半端な形で尋ねてしまう。

「――アーネスト殿下は、若くしてお隠れになられています」

「え……」

 それはつまり、すでに亡くなっているということだ。ロゼリエッタは思いもしなかった答えに目を見開き、深入りしすぎたことに項垂れた。

 やはりシェイドが話すまで待つべきだったのだ。

 顔を上げられないまま謝罪の言葉を口にする。

「あの、知らなかったとは言え……無神経でごめんなさい」

「伏せられていることでもありませんし、重要なこととして僕から先にお話するべきでした。アーネスト殿下は十九年ほど前、孤児院を視察した帰りに馬車の事故で亡くなっておられるのです」

 シェイドの声は静かだった。

 けれどその言葉は決して穏やかなものではない。ロゼリエッタは弾かれたように顔を上げた。

「ロゼリエッタ嬢」

 ふいに名前を呼ばれ、目線を合わせる。

 目が合ったのも束の間、呼んだ側のシェイドがすぐに視線を逸らし、よりいっそうと苦渋の色を浮かべた。

 テーブルの上で両手の指を強く組んで一際大きく息を吐く。

「僕はあなたに嘘を二つ、ついていました」

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