白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

3. 一人きりの心

 そろそろ最初の曲が流れる時間だからだろうか。

 ダンスホールを兼ねた大広間から社交場のサロンへ向かう人々よりも、サロンからやって来る人々の方が多い。パートナーと思しき異性と一緒の人もそうでない人もダンスを楽しみにして来たことに変わらないのか、皆が楽しそうに笑っていた。


 明るい表情の人々を対照的な暗い表情で見つめ、ロゼリエッタは顔を伏せる。

 今日は体調も悪くなかったし、一曲くらいはクロードと踊りたかった。けれど、とても踊れそうにない。


 視線の端に、ぎこちなく繋いだ手が映る。

 行き交う人々の間を歩くのにはぐれないようにと繋がれた手だ。でも今は人通りはそんなに多くない。用が済んだと離される前に自分から解くべきだろうか。

 そう思う心とは裏腹に指先へと力がこもる。するとクロードが振り向いた。

「ロゼ? 何かあった?」

 立ち止まって欲しい合図だと思われたのだろうか。ロゼリエッタは「いいえ」とだけ答えて首を振った。

 指先の力を抜いてクロードの横顔を見上げる。だけど、視線に気がつかれてしまうかもしれないと、またすぐに俯いた。

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