白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 いつか、ロゼリエッタの心も一点の曇りのない状態になる日は来るだろうか。

 クロードへの淡い初恋を過去の思い出として、心を軋ませることなく振り返られるだろうか。

 そんな日が早く来て欲しい。

 一方、同じくらいの強さでそんな日は永遠に来なければ良いとも思っている。


 青い空を二筋の白い光がよぎって行く。

 二羽の白い小鳥が時には離れ、時には寄り添いながら飛んでいた。

 (つがい)だろうか。その舞うような仕草が、幼い頃の無邪気な戯れの記憶を呼び起こしはじめるのを察し、ロゼリエッタは小さく首を振った。


 恋心は奥へとしまい込んで鍵をかけた。

 その鍵も早めに捨ててしまわなければ意味がない。

 じゃないと結局は、簡単に開けて取り出してしまいそうになるから。


 でも――それは今この場でするべきことでもない。


 あるはずのない小さな鍵を手の中に握りしめ、ロゼリエッタは視線を前に戻した。

「レミリア王女殿下」

 呼びかければ、すぐさま視線が重なった。

 レミリアは優しく微笑みかけるだけだ。自ら口を開こうとはしない。

 この場の主導権を完全にロゼリエッタに明け渡していた。


 もう一度、自らの手を強く握る。

 まだ考えは上手くまとまらないままに口を開いた。

「マーガス殿下はご無事だと伺っております。ですが本当に毒が……?」

 第一声は違うものを想像していたのか。レミリアは意外そうな面持ちを見せたが、すぐにその色を消して頷いた。

「あの日、マーガス殿下にお茶を淹れたのは私の侍女を務める信用のある者よ。だから殿下に害を及ぼすような真似をすることなどありえないわ」

 強い口調で断言し、でも、と言葉を続ける。

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