白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 先程、ダヴィッドが味方になってくれたことが嬉しかった。

 彼がいてくれたら考えもまとめやすく心強い。でも、これはロゼリエッタが自身の力だけで立ち向かわなければならないものだ。


 何より、彼を頼ることと利用することはまるで違う。

 優しいダヴィッドはお互い様だと言ってくれる。

 だからと言って甘えていてはいけない。

「殿下、またロゼに会いに来てもよろしいでしょうか。そして叶うのなら、彼女の兄レオニールだけでも顔を合わせるご許可をいただければ」

「それはもちろんよ。ただ、目立った行動はまだ避けたいの。一度に会えるのは、あなたかレオニール・カルヴァネス卿のどちらかだけにして下さる?」

「承知致しました。ではレオニールを優先に、またお伺い致します」

 兄だけとは言え、家族に会える。

 その事実はロゼリエッタの心を軽くした。飛び上がらんばかりの勢いでソファーから立ち、ダヴィッドとレミリアに深々と頭を下げる。

「ありがとうございます」

「じゃあ俺はもう帰るけど――頑張れ、ロゼ」

 ロゼリエッタは真っすぐに顔を上げて力強く頷き返した。その様子にダヴィッドはどこか寂しげな目を一瞬だけ向けたが、すぐに優しく微笑んで部屋を出て行った。

 ダヴィッドの手で閉じられたドアをしばらく見つめ、再びソファーに腰を落ち着ける。

「お話をお聞かせ下さる前に、お時間を取らせて申し訳ありません」

「いいのよ。こちらこそ振り回してしまってごめんなさいね」

「――いえ」

 それきり、静寂が室内を支配した。

 レミリアはロゼリエッタの考えを誘導するようなことはしない。窓の向こうの晴れ渡った空をじっと眺めている。

 聞きたいことが多すぎて咄嗟にまとめられず、視線のやり場に困ったロゼリエッタも何を思うでもなくそれに(なら)った。

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