白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

40. 唯一の切り札

「静粛に」

 国王の一声で、室内は水を打ったような静けさを取り戻した。

 ロゼリエッタを見やり、王はどこか愉快そうに問いかける。

「異議を申し立てるとのことだが、ではロゼリエッタ・カルヴァネス嬢に問おう。そなたはクロード・グランハイムの潔白を主張し、すなわち真の犯人を知っていると言うことか」

 国王直々の質問を受けたロゼリエッタの一挙手一投足を見過ごすまい。そんな意思のこもった貴族たちの眼差しに気圧され、ロゼリエッタは倒れないよう必死で耐えた。


 自分は大それたことをしなくたって良い。

 ほんの少し、水面を波打たせればロゼリエッタの手を離れても上手く行く。

 そう信じるしかなかった。

「いいえ。クロード様の潔白は信じてはおりますが、誰が陥れようとしているのかはわたくしには分かりかねます」

 だからと言って、その場限りの適当な発言でこの場をかき回せば良いというわけでもない。

 下手につじつまを合わせようとでまかせを並べても逆にクロードを窮地に追い込む自体になりかねず、それでは何の意味もないのだ。

「ほう。では根拠はないが無実だと?」

「――いいえ」

 ロゼリエッタは再び王の言葉を否定した。

 我ながら支離滅裂なことを言っている自覚はある。

 でも王の興味を引けるよう、拙い駆け引きをしてわざと遠回しな言い方を選んだ。

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