白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 そうだ。

 ダヴィッドも婚約の発表に関しては何も言わなかった。それはクロードとの婚約解消が公にされてはいなかった為だと思っていた。でも違った。ダヴィッドは彼なりに勘づいていたのだ。


 ひどい仕打ちをしたと思う。

 ダヴィッドと幸せになろうと思った気持ちに偽りはない。

 でも結果的に嘘をつき、利用した。

「ダヴィッド様に、嫉妬なさっていたのですか」

「うん。僕には心から笑ってくれないのに、ダヴィッド様といる時の君はいつだって楽しそうに振る舞っていたから悔しかった。君を笑顔にすることさえしてやれない自分がもどかしかった」

 そんなことを考えていたなんて知らなかった。

 言ってくれたら――でもそれはお互い様だ。

 ロゼリエッタも、困らせるなんて考えて飲み込んでしまわず、言えば良かった。


 だけどそれは後になってから言えることであって、別離を経験しなければ何も言えないままだっただろう。

「クロード様なんか、嫌いです。……大っ嫌い」

 ロゼリエッタは自ら身を引いた。

 頬に触れる温かな手が、離れて行く。

 寂しさを感じる前にクロードの首に両手を回して縋りついた。

「ずっと好きだったのに。クロード様の為に大人になろうとして、色んな気持ちを我慢していたのに」

「うん。泣きたい時に泣かせてあげられなくて、余計につらい思いをたくさんさせてしまったね」

「だから、もう、嫌い」

「それでもいいよ。嫌われていても、他の誰かを選んだとしても、僕はずっと、君だけがいい。君だけを愛してる」

 嫌い、嫌い。

 そう繰り返す度に、抱き締められて好きだと伝えられる。


 ずっと、その腕で抱き締めて欲しいと思っていた。

 愛してくれなくてもいい。

 ただロゼリエッタだけに触れていて欲しかった。

< 263 / 270 >

この作品をシェア

pagetop