白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
第二章

5. 初めて恋を覚えた日

「ああ、ごめんねロゼ、騒がしかったかい?」

 ここ数日、ロゼリエッタは体調を崩して自室のベッドに()せっていた。

 それが今日になって多少の元気を取り戻し、散策でもしようと中庭に向かう途中のことだ。いつもよりずっと楽しげな兄の笑い声が前方の客室から聞こえ、誘われるように開け放たれた扉から中をそっとのぞき込む。


 のぞき見なんてはしたない真似をするつもりはなかった。けれど結果的にはそうなってしまったうえに、見つかったことがひどく気まずい。

「怒ってないからこちらへおいで」

 罪悪感に固まっていると兄レオニールが優しく促す。今さら逃げ出すわけにも行かず、ロゼリエッタはおそるおそる兄たちが囲むテーブルに近寄った。

 最近、レオニールは友人をよく家に連れて来る。社交界への正式なデビューはまだ何年か先ではあるけれど、今後に必要な人脈作りをしているらしい。

「お兄様のお友達?」

「そうだよ。グランハイム公爵家は君も知っているだろう? クロードは公爵家の令息なんだ」

 ロゼリエッタはクロードを見つめ、それから俯く。

 兄の友人は今までにも何人か遊びに来たことがあるけれど、遠目から眺めるだけでも全員とても怖そうに見えた。近寄るなんて(もっ)ての(ほか)だ。

 もちろん、兄が親しくするくらいだから実際は良い人ではあるのだろう。でも病弱で十歳という年齢以上に幼いロゼリエッタには、三歳年上の男の子たちはあまりにも大きな存在だったのだ。

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