白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
 簡単になくなるような想いなら、とっくに涙なんて乾いている。

 たとえ再び婚約者としての関係を築けないのだとしても、無事に帰って来れるように祈ったりもしない。


 そしてそんな自分はとても愚かだ。

「お嬢様、お食事をお持ちしました」

 ソファにぼんやりと腰をかけ、浪費に近い状態で漠然と時間を過ごしているうちに昼食の時間になったらしい。二人分の食事を乗せたワゴンを押しながらアイリが部屋にやって来た。

「レオニール様は午前中の用事が立て込んでいて、十分ほど遅れるとのことです」

「分かったわ、ありがとう」

 そう言ってアイリはてきぱきとテーブルの上に食器を並べて行く。

 あの日以来、兄はよほど都合のつかない時以外はロゼリエッタの部屋で昼食を摂るようになった。朝と晩はできる限り家族が揃った状態で摂っているから、三食の全てで兄の顔を見ている。


 レオニールは特に何を言うでもない。元気を出すよう励ましや慰めの言葉をかけることもなく、そっとしておいてくれた。

 とは言え兄なりに心配をしているようで、いきなり昼食を共にするようになったのもその一環なのだろう。無理はしなくていいと言いはするものの、食事だけはしっかりするようにと子供のように叱られる。

「毎日お昼になる度に家に戻られるのはお兄様だって大変でしょうに」

「それだけお嬢様を心配なさっておいでなのですよ」

 クロードとは違ってレオニールは文官として王城に勤めている。侯爵家の嫡男とは言っても宮廷にはもっと位の高い人物はたくさんいるし、まだまだ年若い。

 それが妹と昼食を摂る為だけに時間の融通をつけてもらう日々が半月も続いているのだ。余計な軋轢が生じたりしてはしないか逆に心配にもなる。

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