白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

6. 行き場をなくした想い

 早いもので一方的な別れを告げられてから半月が経とうとしていた。

 いつまでも引き摺って、沈み込んでいるわけにはいかない。

 頭ではそう分かっているのに、心と身体は従うことを拒否し続けている。毎晩、夢の中で幸せな欠片を拾い集めては、目が覚めた時に現実を知って涙をこぼす。その繰り返しだ。


 昨夜は、裏庭に白詰草が咲く中から四葉を探す夢を見た。

 クロードが騎士になりたいのだと教えてくれた、十二歳の時の話だ。良いことがありますようにと願って、押し花にした四葉を忍ばせた手作りのお守りを渡した。

 そんな夢を見たのも昼間、クロードが隣国へ旅立ったと兄から教えられたせいだろう。もっともクロードがこの国を出たのは昨日ではなく、一週間も前の話らしかった。


 レオニールにさえ情報が遮断されていた辺り、クロードやグランハイム家は出来る限りロゼリエッタの耳に入ることを遅らせたかったのかもしれない。それが解除されたということはクロードは隣国に到着したか、近辺まで辿り着いたのだと思われた。

 出発の日時を聞いたところで、ロゼリエッタにできることなど何もない。婚約解消の取り下げを訴えて家を訪ねたことは一度もなかったけれど、行かないでとみっともなく縋りに来ると思われていたのだろうか。


 もちろん婚約を解消されたところで、恋心までもがロゼリエッタからなくなってしまったわけではない。

 初めて会った日から六年――恋をしていると自覚を持った時には出会いから二年が経過していたけれど――ずっと、別れの日が来るなんて知らずにクロードに想いを寄せたままだ。

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