白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

7. 白詰草の記憶

 ロゼリエッタは俯き、両手を強く握りしめた。

 なのに掌の感覚がまるでない。そのくせ心臓はうるさいくらいに鼓動を刻み、冷ややかな熱を伴った。


 一度目をきつく瞑って、それからゆっくりと開く。再び兄に視線をやり、震える声で問いかけた。

「巻き込まれたとは、どういう状況なのですか」

 聞きたくない。けれどクロードの安否を聞かなくてはいけない。

 でも、クロードの身が無事ならば、兄はこんな言い方をしなかっただろう。

 ロゼリエッタを安堵させるように「巻き込まれたけど無事でいるよ」と言ってくれるはずだ。

 仲の良い兄だからこそ、その言葉選びで察してしまう。


 兄は静かに首を振り、苦しそうに眉根を寄せた。

「まだ詳しいことは何も分からない。ただ……国王陛下を通して隣国の王家から、グランハイム家に伝えられたそうだよ。もちろんレミリア王女殿下もご存知のことだ」

 ロゼリエッタは押し黙って兄の告げる一字一句に耳を傾ける。

 その言葉は冷えた心臓から冷たい血液と共に全身を流れ、今にも身体の奥底から凍えてしまいそうなほど残酷なものだ。

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