白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる

11. 王女の使者

 父と同年代と思しき文官は表情を全く変えることなく、ロゼリエッタの提出した封筒を受け取った。中の書類をざっと(あらた)め、やはり感情の窺えない声で一言のみを告げる。

「確かに受理致しました」

 このような事態が頻繁にあることだとは言えないまでも、制度が存在する以上は婚約の解消の申し立ては何度かあるのだろう。見ず知らずの相手からの同情や憐憫ほどつらくなるものもない。だから文官の事務的な対応は逆にありがたかった。


 それでも、人生に大きく関わる事柄だ。もう少し――上手く説明はできないけれど何らかの波風なり煩雑な手続きなりがあると思っていた。


 でも、こんな簡単なやり取りで終わってしまうものらしい。

 それはクロードの中でロゼリエッタの存在など"こんな簡単に終わらせられる"程度だと告げられているようで、散々傷ついて疲れ果てたはずの胸をなおも軋ませた。


 いつまでもこの場に残っていたところで文官の仕事の邪魔になるだけだろう。ロゼリエッタは一礼すると部屋を出た。事務的な態度の文官は、机に積み上げられた書類の束に目線を向けている。ロゼリエッタから同意書を受け取ったことももう忘れたかのように、反応はなかった。

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