白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
(クロード様……)

 クロードが生きていた。

 その事実は嬉しくも、同時にロゼリエッタを激しく打ちのめす。


 クロードはロゼリエッタの元に帰って来てはくれなかった。

 隣国に発つ前に婚約を解消したから?

 もしそうなのだとしても、友人関係は続いているはずの兄にすら連絡をしなかったのだろうか。


 そして、あくまでも別人として皆の前で振る舞っている。

 そんなに過去を捨てたかったのだろうか。

 そんなにロゼリエッタとの婚約を解消したかったのだろうか。


 そうまでして、レミリアの傍にいたかったのだろうか。


 だったら、こんな遠回しな、手の込んだことなどせずとも良かった。たった一言を言うだけで良かったのだ。

 愛してはいない。

 それだけで、身を引いていた。


 でもきっと、隣国へ旅立つ日さえ教えてはもらえなかったように、言葉ではロゼリエッタは身を引かないと思われていたのだろう。

 婚約の解消を告げられた時、クロードからの言葉を受け入れなかったから。

(もう、いい。もう十分だわ)

 はっきりと拒絶しないことが優しさだと思っているのなら、もう二度とロゼリエッタからは近寄らない。

 ましてや、こうして別人として戻って来たのだ。クロードはロゼリエッタに別れを告げ、完全に過去と決別していた。ロゼリエッタも、その事実を受け入れなければいけない。


 ロゼリエッタはダヴィッドの着るジャケットの袖をそっとつまんだ。

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