白詰草は一途に恋を秘め、朝露に濡れる
第三章

13. 仮面の騎士

「レミリア王女殿下よ」

「相変わらず美男美女でお似合いでいらっしゃるわ」

 サロンへ姿を見せたレミリアは普段より一際人々の、特に年若い令嬢たちからの注目を集めていた。


 何しろ今日の夜会では彼女の隣にマーガスがいる。あまり夜会に出ないロゼリエッタの記憶ではあるからあてになるものではないけれど、マーガスがこの国を訪れるのは婚約を発表した時を含めてもこれで四回目だ。

 この国の人々の前にその姿を見せる回数は少なくとも、身分的にも容姿的にも釣り合いの取れた二人は人目を引く。令嬢たちの羨望を独り占めするのはなおさらだった。

「お付きの騎士はどなたなのかしら?」

「見慣れない方ね」

 さらに令嬢たちの興味を惹くのはロイヤルカップルの存在だけではない。マーガスの後ろに影のように従う仮面の騎士もその対象になっていた。


 仮面をつけているから、もちろん顔は見えない。けれどとても整った容貌をしているであろうことは、その口元と鼻筋の輪郭から窺える。

 黒い髪は少し長めで、前髪が目元にもかかっていた。ただでさえ仮面に遮られて視界が悪い気がするけれど、変えることの出来ない目の色をよほど隠したいようだ。


 ロゼリエッタの胸が軋みはじめた。


 髪の色が違うのは染めているからなのだろう。あんなに綺麗な金色だったのに、今はもう見る影もなかった。

 だけど他の人を騙せたってロゼリエッタには分かる。レミリアを見つめる時の横顔をずっと見て来たロゼリエッタは、仮面の騎士がレミリアに向ける視線がクロードと全く同じものだと分かってしまう。

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