sugar spot
”足引っ張んな。”
「…なんなの、今それ言う?」
何を言われるのかと構えたら伝えられたのは、とても胸に刺さる言葉だった。
散々、この男に言われてきたことだ。
その度に、心に靄がかかって、苛立って、
絶対支え合う関係なんて築けないと決めつけた。
「…足引っ張ってきた自覚はあるけど。」
___でも、今はもう支え合えないとか、
そんな風に、思いたく無い。
スマホを握りしめて、心でならちゃんと言えた言葉を今度こそ正直に音にしようと口を開くと、
”俺がこれをお前に言った意味、分かってない。”
「…え?」
『…そんなの、分かってる。これからは、あんたの世話にならないようにやるし、安心してよ。』
『……お前、絶対分かってない。』
歓迎会の時、同じように有里に言われた後に交わした会話を、どうしてだか思い出してしまった。
「…なに?」
”お前自身が、お前の足を引っ張ることすんなって言ってんだよ。”
「……、」
”誰かと比べて、
「自分」から遠ざかろうとすんな。”
男が紡ぐ一言一句、心の中への侵入を許してしまう。
目に映る世界が、あっという間にまたぼやけた。
”…あの残業の時。”
「うん。」
”俺が古淵さんの話をしたのは、
お前に「俺も一緒だ」って伝えたかったから。”
2人背中合わせでひたすらに梱包作業をしていた時、この男はなんの前触れも無く、古淵さんしか成しえなかった武勇伝を話し始めた。
「…いっしょって…」
”例えば俺が、あの人と同じ営業スタイルを
出来ると思うか。”
「…絶対無理。」
ぺっかぺかの輝く笑顔で、不思議な日本語をいつも用いる優しい古淵さんを思い出して、その後、あまりに重ならない能面を思い出して、否定しつつ少しだけ表情が緩む。
というか、あの人の営業方法は
誰にも真似なんか出来ない。
”うん。でも、無理だって割り切るの、
それなりに時間がかかった。”
「…え?」
”戸惑った。営業は、マニュアルが無い、そういう仕事だって覚悟してたけど。"
「戸惑う」だなんて、あまりに有里に似合わない言葉だと、直感的に思う。
冷静沈着、貼り付いた能面、それがこの男のいつもの姿のように感じていた。
"お前、どうしたって存在を意識する直属の先輩が、あんな自由人だった時の俺の気持ち想像してみろ。”
「……、」
確かにそれは少し、
お悔やみを申し上げたいかもしれない。
頭の中で、「梨木っちー!」と笑ってぶんぶん手を振る彼を思い出す。