sugar spot
”あの人の、結局周りに人が集まってくる人柄は天性のものだし、人脈ばけもんだし。
焦った。俺はこの人と、全然違う。
目指したくても、道筋が上手く見えてこない。
この葛藤は、お前と一緒だろ。"
___いつか、ちひろさんみたいになりたい。
営業部で同じ仕事をするんだから、
私も当然、彼女のようにならないといけない。__
入社した時から、もうずっと。
私が抱いていた張り詰めた気持ちを、
この男も本当は、同じように抱えていたのか。
”…自分が出来ること頑張るしかない。
話し上手なわけでもないし、愛想も良くはない。
だったら、「なるべく正確に素早く」
そういう姿勢で、古淵さんとは違うやり方で、
信頼を勝ち取っていくしかない。”
自分に言い聞かせるように男が漏らした言葉は、少しだけ心許ない気がして。
言葉を挟むことで、いつもあまり饒舌とは言えない男の話を途切れさせるのは躊躇われ、ただ、耳にその声を入れ込んだ。
"ミスは許されないと思ってた。
自分でそういう風に追い込んだ。
…だからあの時、お前に言われて驚いた。"
「あの時?」
"お前が、俺の代わりに花を発注してくれた時。"
「…、展示会?」
"そう。"
熱を出して、珍しくミスをした男の代わりに花の手配をした。あの時も私に助けられたことに、どこか複雑そうな表情を見せていた。
『…あんたは、ロボットか。』
『は?』
『常に、いつも、何も、間違わない。
そういうマシーンにでも、なるつもりなの。』
"…なんも知らないくせに、「失敗して何が駄目だ」って見透かしてきてるとこが、もう既にお前に負けた気分だった。
俺は確かに、"完璧"に拘って余裕も無かったと思う。"
ゆっくり語られていく言葉の裏で、先程見送ってくれた吉澤さんに、エレベーターが閉まる直前、思わず尋ねてしまったことを思い出す。
『タイプの違うあんたが傍にいたら、あの男も何か影響を受けながら、一緒に2人で成長していけると思ったのよ。』
『私があの男に影響与えるなんて、
そんなこと、ありますか?』
『さあねえ。……それは本人に聞けば?』
"人と比べて追いつきたい、負けたくないって感情になるのも、それとは違う方向で進むって決めるのも、別に悪くない。自然なことだろ。"
「…うん、」
"でも、だからって気を張りすぎるのも、
感情を抑えつけるのも、やめる。
お前が俺のこと、吹っ切らせてきた。"
どこか清々しさを持って伝えてくる男の声は、
今までで1番、優しく聞こえた。
私も、この男を支えられた時があったって、
思っても良いのだろうか。
"____花緒。
だからお前も、ちょっと勇気出して、
考え方を変えろ。"
ずるいと、思う。
いつもいつも、腹の立つ言い方ばかりしてくるくせに。こういう時にどうして、名前を呼ぶのだろう。
前に呼ばれたのは、確か、エレベーターの前だった。
弱りきった私のことを、何故だか抱き締めて、
______そしてそこまで考えて、気づいてしまった。
『_____お前は、お前だろ。』
多分、本人はきっと意識なんかしていないと思う。
私の、勘違いかもしれない。
でも。
「他の誰かじゃなくて、お前を見てる」と、ぎこちない言葉と共に、私と向き合おうとしてくれてる。
そういう時の、合図な気がした。