sugar spot



左腕につけた腕時計が、
そこそこ時の進みを知らせている。


まだ、話したいことも、
"答え合わせ"したいことも、あるけど。

私が今日を乗り切ったら、に後回しをすると決めた。


___でも、あと1つだけ。



「有里。」

"なに。"

「……私はもうやっぱり、良いって言ってくれても、あんたの足も、引っ張りたくないよ。」


"なんで。"


ぎゅ、と今までで一番、スマホを強く握った。


「たぶん、とっくの前から、
"ただの同期"じゃなくて、”恋愛対象”だし。

足引っ張るとか、そういうのじゃなくて。
私、一緒に、あんたと進みたいから。」


"っ、"

息を詰めるみたいな驚いた気配を感じた瞬間、
そのまま勢いよく通話を切った。


「い、言い逃げしてしまった、」

殆ど告白しておいて、
電話を勝手にぶち切る女ってなんなんだろう。

右手を心臓に当てると、掌にまでちゃんと跳ね返してくるみたいに、打ちつける鼓動を感じる。

あの男が、とても怒っている表情も容易に想像できたけど、もう止められなかった。

伝えたかった。



その時、握っていたスマホが
数回震えてメッセージを受信する。



《おい~~~そろそろ飲むぞ!集まるぞ!》

《長濱、こんな時間にメッセージしてきて暇なの?》

《上司に怒られて泣いてんだよ》

《かわいそう》
《どんまい》
《生きろ》

《そんな軽い励ましなら、おれ要らない》  

《じゃあバイバイ》 
《達者でな》 
《生きろ》

《ごめんみんな、俺が悪かった》


「…すごい、タイミング。」

同期のグループLINEで既読が付いた何人かで繰り広げられていくトークを見守って、ふと笑った。


『同期ってね、かけがえのない存在だよ。』

やっぱり神様のお告げは、正しい。


頑張ってるのかなあって思いを馳せたり、なるべく怒られていないと良いなとか、楽しく働いてると良いなとか、そういうことを願ってしまう仲間は、友達とはやっぱり、少し違うのかもしれない。

どうしようもなく、かけがえがない。



ただ微笑んで見守っていたら、
個人トークの方にもメッセージの通知が来た。

能面の、男からだった。


《何勝手に言い逃げしてんだよ》

《すいません》

《お前は早くクライアントのとこ行け》


言われなくても、もう向かってるわ。

ベースの腹立たしさは変わらないなと、変なスタンプを荒々しく押して終わらせようとすると、


《待ってるから、早く帰ってこい》


結局、最後は
背中を押してきたりするから、余計、ムカつく。


  
どうしようもなく、かけがえのない中に。

私はこの男にだけ、
特別な感情も抱いてしまっている。



「……先に、お手洗い寄ろう。」

化粧直しをちゃんと施して、気を引き締めようと、
駅へその足を急がせた。
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