sugar spot

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「わざわざお越しくださりありがとうございます。」

「私こそ急にご連絡してしまって、
申し訳ありませんでした。」

「…いえ。先日は、本当にすみませんでした。」

「…いえ、とんでもないです。」


辿り着いた△社の大宮オフィス、とある会議室。

閉鎖的な空間は、私と敷波さんがつくる重苦しさのある空気に、皮肉にもぴったりだった。


コーヒーを差し出してくれて、お礼を告げると、困ったような笑顔に出会う。
恐らく彼も、私にかける言葉を探してるのだと思う。


深く息を吸って吐いた。

とても緊張している。
出来ることなら、逃げたいとも思う。

でも、伝えたいと準備したことを、
きちんと此処に、置いていかないと。




「敷波さん。あの時いただいた質問、私なりに色々と考えました。」

「はい。」

「ですが、答えは出ませんでした。」

「…、そうですか。」



『ネット環境が充実して、家でだってやろうと思えばいくらでも仕事ができるこの時代で。

わざわざ新しくオフィスを作る必要は、あるのかと。

…僕は、最初から、間違えていたんでしょうか。』



気持ちの良い正解をすっぱりと1つ、
格好良く示せたら良かった。

でも、私にそんな、器用なことは出来ない。


「オフィスは、"作って終わり"じゃないです。」

「……」

「自分の経験なら、いくらでもあるんです。

憧れの先輩に教えてもらいながら苦手な設計図を広げて、勉強したことも。
ミスして凹んで、夜な夜な残業して、先輩や同期に手伝ってもらって仕事を仕上げたことも。
初めての社内プレゼンで噛みまくって落ち込んだことも、でも、なんとか掴み取ったことも。

全部、オフィスで誰かと働いていたから、得た経験です。」

「はい。」


対面に座る彼は、ちゃんと私の言葉を聞いてくれている。
そのことを実感して、資料を持つ手に力が入った。


「でも、私の経験を成功例のように語ったって、社員の方々には、響かないって分かっています。」


オフィスは、こんな経験が出来るんだよと、予め示すことが出来る場所じゃ無い。

私だってこの数ヶ月、
予期していた出来事の方が少なかったように思う。

____でも経験の全てが、やっぱり大切だから。



「…私達を信じて、
"これから"に投資してくださいませんか。」

「え?」

「オフィスは、完成して、そこから始まるんです。

社員の方々で、働く環境を、リズムを、つくっていくことで漸く居場所になっていきます。

必要だと実感していただくためには、
正直、完成してからが勝負なんです。

だから私達は、それがどんなに狡くても「オフィスを変えて良かったですよね?」って敷波さんに後で自信を持って笑えるように、今、いくらだって頑張ります。」


「…そこまで明け透けに、語って良いんですか。」

「敷波さんだから、お話しています。」


部長に「ばか正直に伝え過ぎだ」と
怒られるかもしれない。

尋ねてきた彼は、また、きゅ、と口を固く結んでしまった。


「敷波さん。確かに、オフィスじゃなくても仕事は進められると思います。
もっと在宅での仕事スタイルが主になって、出勤するバランスは、変わっていくのかもしれません。

だけどオフィスの必要性が0に、ならないように。
家じゃなくて、オフィスに行く意味を見つけていただけるように。

私達は、いつも必死です。」



『……なんか、仕事行く時にテンション上がること欲しくないですか?』

『…え?』

『なんでも良いです。
でも朝眠いなあ、だるいなあってどうしても重い身体をちょっとだけ助けてくれるとっかかりがあったら、良いなって思うんですよね。』

『……、』

『職場がオシャレだったら、
ちょっとテンション上がりませんか?』

『…上がるかも。』


人間は、些細な取っ掛かりで、
案外、動けたりするから。


美味しいランチ屋さんに行くとか、
大好きなバンドのCDを買うとか、
私の恋愛話を掘りまくる同期と遊ぶとか、
腹の立つ男となんてことない話を、してみるとか。

ありふれて見落としてしまいそうで、
だけどその全てが、
日々の私を助けてくれる、とっかかりであるように。



「…展示会でもご紹介しましたが、弊社のオフィスメーカーとしてのコンセプトの中に、もうずっと揺るがないものがあります。」


___"居心地の良さで、「働く」は決まる。"


あの日、不意に見つけたキャッチコピーに
リクルートスーツで人混みに流されて、
ふらふらと彷徨っていた足は、止まった。




「完成した後、仕方なくじゃ無くて、"居心地が良いからオフィスで働くか"って、思っていただきたいです。

私は、そのためのとっかかりになる種蒔きを、
沢山させていただきます。」

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