sugar spot
「…種まき、というのは。」
「オプションを重ねていけば、その分、機能性の高いオフィスを当然つくることが出来ると思います。
でもそれを、敷波さんは望まれていないですよね。」
「そう、ですね。」
少し両肩をすくめて、力無く笑う彼に頷く。
予算を考えても、彼の上司の反応を考えても、そこまで大々的にお金をかけたリニューアルはできない。
「敷波さん。思い切ったご提案ですが、フロアの全てでフリーアドレス制を導入しませんか。」
動悸の激しさを感じながら、作成した資料を敷波さんに手渡した。彼は瞬きをしながらも、それを受け取る。
「フリーアドレスって、最近よく聞く仕組みですよね。」
「はい。社員の方ひとり1人の個人席を無くして、自由にそれぞれが自分で仕事をする場所を決められるシステムです。」
「…それは、どういったメリットがありますか。」
「そもそもの目的としては、自由闊達な意見交換の出来る場所をつくられるだとか、オフィスでの働き方の変革事例として、よく用いられています。
でも、今回私は、コストの面からもこのシステムをおすすめしたいです。」
「……コストですか。」
手渡した資料を熱心に見ていた彼が、私の言葉に意外性を感じたのか、目を丸くしてこちらを見つめていた。
「フリーアドレスを導入して、更に、
座席数そのものを減らします。」
「え?」
「確か、この大宮オフィスの座席数は今、
全部で150席くらいでしたよね。
それを約100席に減らします。」
「そ、そしたら席が足りないと困る社員が居るんじゃ…」
「同時に、在宅での仕事も推奨していきます。」
「……敢えて、ですか。」
何かを察してくれた彼に、こくりと頷く。
「これは、新しいワークスタイルの構築を促す種まきです。
オフィスは絶対必要なんだと、そこに固執してリニューアルを進めるよりも、毎日働き方を選んでくださいね、そういう考え方で進んだ方が、きっと長く活用していただけると思っています。
事務職の女性の方々は、主婦の方やママさんも多いですよね。どうしても家で仕事をしたいという日もある筈です。
不規則な営業職の方が多いオフィスよりも、シフトを組んで効果的な在宅ワークとフリーアドレス制の両方を進められると考えています。」
「…確かに、シフトは松奈の居る本社よりも、組みやすいかもしれません。」
「そして何より、今までの見積もりより、50席分以上の家具、通信機器、それに伴う施工、その全てをコストカットすることが出来ます。
特注の椅子も、全てに採用できなくても、とある一角で数脚設置して、その性能の良さをまず社員の方々に確かめていただくのも良いかなと、思います。」
伝える度に声は震えた。
でも、資料片手に何度も練習をしたから、一応、私が用意していた提案は伝え切った。
ホッと安心したタイミングで、足元から時間差で震えが上がってきて、話し終えた喉もカラカラで、自分の緊張を物語っていた。