sugar spot
《今日の飲み会、行く?》
たったこれだけを送るのに、また勇気を総動員させてこなければいけない。
いや、ただの確認だし、大体仕事してるんだし、
直ぐに奴がメッセージを見るわけじゃないんだから。
言い聞かせて送信を押そうとした瞬間、
《今日、長濱のやつ行く?》
「っ、!」
何故だか同じような文面で向こうからメッセージが来て、新手のバグかと動揺と共にスマホを落とすかと思った。
既読も素早く付けてしまって、「なんでお前が送ってくるんだ」とお門違いに責め立てたくなる。
《…行こうかなと、思ってるけど。》
《あ、そ。》
《そっちはどうするの?》
《今日残業。》
「…え、じゃあ来ないってこと?」
メッセージ上じゃなくて、素で漏れた言葉は既に沈み気味だった。
確かに、週半ばの明日も勿論仕事で、急な飲み会だし不参加でも仕方がない。
ちゃんと話をするのはまた今度か。
それを実感すると心がちょっと乾いた気がして、
これは寂しい、に通じている気もしたけど。
かと言って困らせたいわけではないと、今日のおすすめ曲だけを送りつけて、トークを終えた。
◻︎
「…焦れ焦れも度が過ぎると、
人はイライラしてきます。」
「はい?」
「なんで無理やり、来てって言わないかなあ!?」
隣に座る奈憂は、至近距離まで私に迫りつつそう問いかけてきた。
「…自分の仕事のことであんなに話も聞かせといて、
なんでそんな無茶で迷惑なこと言えるの。」
「は~~イライラするけど尊いね!!?」
「はい?」
もう怒ってるのかなんなのか、よく分からない。
やはり推しに抱える心情は、いつも複雑らしい。
「奈憂、何飲む?」
「ビール。」
「はいはい。」
「長濱を労る会」の主催者である長濱が自ら予約したのは、なんてことないチェーン店の居酒屋だった。
急にしては7人も参加するらしく、まだ来ていないメンバーも含めて余裕のある座敷の席に通された。
飲み放題メニューを見ながら問いかけたら奈憂はそう即答して、「花緒は?」と尋ねてきた。
「私はグレープフルーツジュース。」
「へえ〜かわいいね。」
語尾をきゃぴっと態とらしく上げて、そのままウインクまで飛ばしてきそうな勢いの女を直ぐに睨むけど全く気にも留めていない。
「お酒トレーニングは?どうしたの?」
「……もう、良いかなって。引退。」
「引退するほど飲んでないでしょ。」
「…飲んでなくても私の良いとこ、あるんでしょ?」
「ばかなところね。」
「……」
「うそうそ、ごめんね?」
__『いつも、ばか正直なところ。
それは、花緒の良いところじゃないの?』__
クスクスと笑った奈憂は「引退、とても賛成」なんて、結局可愛く伝えてくるから、こちらも最後は釣られて笑ってしまった。