sugar spot
「……酔いがさめた。」
「うん、悪い。」
「お前、悪いと思ってる!?」
「あんまり。」
長濱とこの能面のテンションは、あまりに違う。
そのちぐはぐさをただ黙って見つめることしかできない。
「だってお前、芦野とも出かけたいって前に言ってただろ。他の同期女子の話も聞いた。」
「う。それはさあ!!そういう時もある!」
やはりアルコールが作り出した勢いに支えられたデートの誘いだったのだと、そこで実感する。
「…別にそれが悪いって言うつもりは無いけど。
でも余所見する余裕、俺には最初から無い。
ここまできて、他の奴に渡すかよ。」
「、」
最後まで冷静に告げ終えて、
またぎゅう、と抱き締められる。
ちょっと、待ってよ。
___答え合わせは、一緒にするんじゃなかったの。
「……推しが、尊い…」
「うわっ、芦野いつからいた!?」
この狭い空間で、また新しい声が聞こえてきて視線を上げたら、目頭を押さえて謎の言葉を呟く奈憂が居た。
その手には、私のバッグが持たれている。
この状況を見られていることに恥ずかしくて死にそうになったけれど、奈憂は私と視線を合わせて、可愛らしく微笑んできた。
そのまま私達の前まで軽快にやってきて、
「はい。受け渡し完了しました。」
と揶揄い口調のままに、
まるで荷物の配達のように告げる。
私のバッグを何故だか代わりに預かった能面が「助かる」とお礼を言いつつ、勝手に話を進めるから、もう先程から頭がパンクしている私は何も言葉が出ない。
肩を抱かれていた腕が解かれた、と思った次の瞬間には私の右手を骨張った大きな手が覆う。
「じゃ、こいつ先に抜ける。」
「はーい。」
「、え、」
くい、と引っ張られてそのまま廊下を進んでいく男に着いていくかたちが、あまりに自然と出来上がっていて。
もつれそうな足を動かしながら一度だけ振り返ったら、奈憂がとても楽しそうに軽やかに手を振っていた。
口パクで何か伝えているから、必死に読み取ったら
"ア ー リ ー 最 高"
と言っていて、なんだそれはと後悔しながらも少し笑えた。
◻︎
「さ、戻ろ。長濱の失恋どんまい会。」
「…土壇場で、会の名前変えてこないで!?」
「どんまい。」
「芦野は、俺とデートどう?」
「え、どうとは?なにが?周りの人間も良い感じにくっつくとか、現実そんな甘く無いからよろしく。」
「……現実つらい。」
「どんまい。お酒飲むか。」
「飲む。」