sugar spot



「言ってないだろ。
俺はちゃんと、まだお前から聞いてない。」

「…え?」

「南雲さんに、
俺のことどう思ってんのがバレてんの?」

「、」


『だ、だから。
私があんたのことどう思ってるか、ばれてて。
それでいつも揶揄ってくるから、必死に対抗してただけ。』


瞳孔が開いていく様を、しっかりと見届けた男は口端を綺麗に上げて、全く主導権を譲らない。

さっきまで阿保みたいな勘違いしてたくせに。

き、と強く睨んだって何も効き目はない。


「さっき言おうとしたら、あんたが止めてきた。」

「俺から言いたかったから当たり前だろ。」

「じゃあ言わなくても分かるでしょ。」

「…俺は阿呆だから、言葉にしてもらわないと
勘違いしてるかもしれない。」

「……、」

よく言う。というか、無茶苦茶だ。

絶句していると、また珍しく相好を崩す男が
薄い唇を開いて、


「___花緒。」

とても優しく名前を紡いで、頬を撫でる。



「やり方が、ずるい。」

「ごめん。でもちゃんと聞きたい。」


急に素直になるのも、やめてほしい。


一つ深呼吸をして、とても短い筈のその言葉を口にしようとしたらどうしてだか分からない、先に涙がまたぽろぽろと出てきてしまった。

それに気づいて直ぐに拭ってくれるこの男のことが、もうずっと前から、私はとっくに愛しかった。



「……穂高。」

「ん。」


「____好き、」



鼻にかかった声でなんとか告げてからも当然、涙は流れ続けていた。
困ったような笑顔でそれを聞き終えた男の整った顔も、滲んで見える。

気持ちがダダ漏れ状態の自分が恥ずかしくて俯こうとしたら、顎を掬われて、ちょっと顔を傾けた男に今までで1番、丁寧に口付けられた。



暫くしてそれが離された時、視線の先の男が、あどけなさの残る表情を珍しく見せたりするから、私もそれに倣って微笑む。

その後すぐ、強い力のままに再び抱き締められれば、私自身のことも、今しがた伝えた言葉も、全てこの男は大事に受け止めてくれている気がして。


今日のことはずっと忘れたくないから、男の背中に腕を回して、その温もりを心に刻めるように強く抱き締め返した。


◇◆


【テーマ】
sugar spot (甘くなる目印)が
発見されるかどうか。

【研究回数】
6回目

【研究対象者】
梨木 花緒
有里 穂高

【最終研究結果】
▶︎果実のように、明確に成熟を告げて
色かたちが変わるなんてことは、ありません。

なんせ意地っ張りな2人なので
その目印が見えるのは、ほんの一瞬。

そうですね。
例えばぎこちなく
"お互い名前で呼び合った時"なんて、
もしかしたら兆候かもしれません。

見逃したりしないで。

甘くなった時の彼らは、
なかなか微笑ましく
笑い合ったりしているので。

◇◆

#6.「天敵を知り己を知れば、終戦」fin.
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